東京電力の「継続企業の前提に関する注記」

東京電力は25日、2011年3月期の連結決算について、監査法人が適正意見を表明したと発表した。この結果、6月28日に開く株主総会に向けた手続きが進展することになる。
(日本経済新聞2011年5月27日)

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経営者は、継続企業の前提に関する評価の結果、期末において、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合であっても、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるときは、継続企業の前提に関する事項を財務諸表に注記することが必要となります(監査・保証実務委員会報告74号3項)。

監査人は、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在すると判断し、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策を講じてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合において、継続企業を前提として財務諸表を作成することが適切であり、かつ、継続企業の前提に関する事項の注記が適切であると判断したときは、無限定適正意見を表明し、監査報告書に追記情報として次の事項を記載する。

(1) 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する旨及びその内容
(2)当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策
(3)継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる旨及びその理由
(4)財務諸表は継続企業を前提として作成されており、当該重要な不確実性の影響を財務諸表に反映していない旨

(監査基準委員会報告書第22号)

新聞記事には、「監査報告書には追記情報が盛り込まれており、「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在している」との指摘がある」旨書かれていますが、監査法人が独自にこのような判断を行ったわけではなく、あくまでその評価は経営者が行う点に留意が必要です。

追記情報は、注意喚起のために行われるもので、監査意見の表明とは区別されるものです。

ところで、経営者が行う注記から経営者の意思や意図が透けて見えることがあります。特に「継続企業の前提に関する注記」のような重要な注記はそのような場合が少なからずあります。

東京電力は次のような注記を行っています。

東京電力株式会社 平成23年3月決算短信 22ページより 【クリックすると拡大表示されます】

私はこの注記にどうしてもひっかかるところがあります。

それは、「原子力損害の原因者であることを真摯に受けとめ」というところです。通常、”責任”という言葉を使うべきところをあえて”原因”と言っています。何度も推敲を重ね、熟慮の上このような言い回しを選択しているのです。

東京電力の経営者は、本音では、自社に責任があるとは考えていないのかも知れませんね。

【リンク】

「東京電力株式会社 平成23年3月決算短信」 [PDF]