所得税の最高税率上げ検討

政府は社会保障制度改革と財政再建を目指した消費税率の引き上げ論議を始めたが、高所得者に追加負担が生じる可能性が出てきた。閣僚らで構成する政府税制調査会は消費税増税と同時に所得税の最高税率引き上げなどを検討する。所得の再分配を強めることで公平感を醸し出す狙い。社会保障財源としての消費税率上げは不可避とみられるが、それに乗じて増税メニューが膨らめば、経済の活力をそぎ、成長を阻害する恐れがある。
(日本経済新聞2011年6月7日1面)

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政府が消費税増税と合わせて所得税などの増税を検討するのは、高所得者から低所得者への「所得再分配」の強化という理屈からだ。政府の社会保障改革集中検討会議が5月30日に公表した消費税増税の「研究報告書」もこうした方向性を示唆」(前掲紙)

「研究報告書」(要約)から消費税の逆進性に関する議論の部分を以下に抜粋します。

逆進性を何で測るか:生涯所得でみると縮小

・ 消費税の逆進性とは、所得に対する消費税の負担率が、低所得者ほど重いことを指す。
・ 一時点の所得でみた逆進性は必ずしも「不公平」を意味せず、単に調査時点の年齢の違い等を反映したものである可能性あり。
・ 生涯所得でみた場合は、消費税は比例税であるとの指摘も多い。
・ 生涯所得でみた消費税の負担は、ある一時点の所得でみた場合と比べ、逆進性が小さいという研究結果が海外でも日本でも報告されている。
逆進性の緩和策としての軽減税率の導入
・ 仮に逆進性緩和策を講ずるとした場合、食料品への軽減税率の適用は、他の手段による対応 に比べ、効果が小さいという見方が専門家の間では国の内外を問わず一般的。
・高所得者と低所得者の間で食料品の支出割合の差が小さく、食料品への軽減税率の適用は 高所得者の負担も軽減される。
格差・貧困と再分配政策
・格差や貧困の問題への対応においては、再分配がこれまで主として世代間で行われていたこ とを踏まえ、より同一世代内の再分配の機能を強化することが必要。
・ 一時点の所得でみた消費税の逆進性は、所得税など他の税制や社会保障制度全体、さらに は歳出面を含めた見直しの中で十分対応可能。
・ 非正規労働者や若い世代・子育て世代なども視野に入れた対応を行うべき。
対応の方向性
・ 格差や貧困の問題に対応するためには、1所得税の累進性を高める、被用者保険の適用範 囲を見直すなど個々の政策手段の再分配効果を高める、2ある程度の支出を行うのに十分な税収の規模を確保する、3格差是正に有効な方法を歳出・歳入の中で組み合わせる、という3つの方法が考えられる。
・ 労働のインセンティブなどミクロ面に配慮した制度設計や、社会保障・税に関わる番号制度な ど徴税のインフラ整備が必要。」
平成23年5月30日「社会保障・税一体改革の論点に関する研究 報告書(要約)」 内閣府 [PDF]

所得税の累進性を高めるというのは、報告書で提案されている対応の方向性の3つの選択肢の1つに過ぎないことに注意が必要です。

【リンク】

平成23年5月30日「社会保障・税一体改革の論点に関する研究 報告書(要約)」 内閣府 [PDF]

平成23年5月30日「社会保障・税一体改革の論点に関する研究 報告書」 内閣府 [PDF]