日本版ESOP

広がるか日本版ESOP(従業員持ち株制度)

上場企業の間で、米国発の新たな従業員持株会制度(日本版ESOP)を採用する動きが出始めている。企業が保有する自社株を従業員に渡し、労働意欲の向上に役立てる仕組みだ。経営者の関心も高く、経済産業省は2008年11月に指針を公表した。ただ。制度で使う信託などの受け皿を独立した株主と見なせるのかなど、法律や会計面での課題も浮き彫りになった。日本で新たな制度は根付くのか検証した。
(日本経済新聞2008年1月5日 25面 法務インサイド)

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あけましておめでとうございます。
本年もご愛読のほど宜しくお願いします。

ESOPは株価が低迷している最近の状況から、日本でも導入に向けて、今年制度の整備が一気に進む可能性があります。

ESOPについて、経済同友会の「株価対策についての意見」の別添に要領よく説明しているので以下に抜粋します。

「アメリカのESOP とは「従業員が株主となることで、資本の分配を従業員にまで広げて株主と従業員の利害を一致させる長期インセンティブプラン」である。
企業の退職給付制度の一つであり、全員参加で拠出は企業のみが行う。企業の損金参入上限は給与の15~25%であり、自社株に投資される。
従業員は退職時まで現金化できない。従って、所得税は退職時に支払われる。なお、運用時は非課税である。
さらに、このESOP は信託として設立され借入を行うことができる(レバレッジドESOP)。この仕組を簡単に示すと以下の通りである。
1. ESOP が銀行からローンを得る。
2. ESOP はローンで得た資金を使って自社株を買い付ける。この自社株は仮勘定に入れられる。
3. 企業がESOP に毎年、上限枠の範囲で拠出する。
4. ESOP は企業拠出を使ってローンを返済する。
5. ローンが返済されるのに従い、仮勘定の中の自社株は決められた算定式に則り、従業員の個人口座に配分される。
6. 配当は従業員口座に直接、もしくはESOP を経由する形で各従業員に支払われるか、ローンの返済に充てられる。
7. 従業員の退職時に、給付は自社株または現金で行われる。中途退社で給付を受ける場合は、給付金をIRA(個人退職勘定)に入れればペナルティはない。
つまり、約10 年のローン元本返済を前提とすると2 年分の給与支払総額に当る自社株を一度に買い付けることが出来るのであり、企業自らが巨大株主を創出するのである。」

つまり、この制度の肝要は、従業員をオーナー化させるインセンティブプランであるというところにあり、これを政府が税制上の優遇措置により後押ししているのです。

ところが日本では安定株主対策としてESOPを捉える経営者が多く、ESOPを会社と切り放して見ることが妥当とは思えません。米国の制度をそのまま持ってきても、買収防衛策の一つとして利用されるだけで、株主全体の利益を害する可能性が高いと私は思っています。

記事には、「一番の問題は会計処理にある」と書かれていますが、それは表層面の問題で、本質は日本のコーポレートガバナンスにあります。経済産業省の指針でもこの点の考察はほとんどなく、技術的な議論に終始しています。

企業価値研究会で別途議論させるつもりでしょうか。

【リンク】

平成20年11月17日「新たな自社株式保有スキームに関する報告書」新たな自社株式保有スキーム検討会[PDF]

2001 年1 月16 日「『株価対策』についての意見」社団法人 経済同友会[PDF]