国際会計基準、有価証券時価評価ルールの改定案 その2

欧米を舞台に、時価会計の見直し作業が進んでいる。金融危機の教訓を踏まえ、国際会計基準審議会(IASB)が7月に公表した金融商品会計基準の草案では、日本固有の持ち合い株について売却益などを純利益に計上しない処理が盛り込まれた。国際基準を2010年3月期から選択利用できる日本企業への影響と、内外で進む議論の現状を探った。
(日本経済新聞2009年8月19日17面)

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草案の概要は7月29日エントリー「国際会計基準、有価証券時価評価ルールの改定案」で紹介しました。

1 毎期の時価変動分や売却損益をすべて純利益に計上する
2 純利益に計上しない場合は配当も含めて「包括利益に計上する」
のどちらかを選択しなければならない
(前掲紙)

日本企業の場合、持ち合い株式をどう会計処理するかが大きな問題となります。

「配当を得るのは株式保有を通じた事業提携のメリットのひとつ。配当や売却益が純利益に計上できなくなるのはおかしい」(新日本製鉄の谷口進一副社長)
(前掲紙)

確かに、政策投資の果実を受取配当金や部分売却により実現させることがあり得るわけで、これが全く純利益に反映されないのはおかしいと感じるのはわからなくもありません。

しかしそれなら、政策投資のコストまで含めてPLに計上すべきであり、「保有している間に株価が下がった分は投資のコストになる」(斉藤静樹 経営財務NO,2929)ので、持ち合い株式については1を選択するのが妥当であるとも考えられます。

やはり一番の問題は、2の処理を選択した場合、その他の包括利益(OCI)から純利益にリサイクルされない、というところにあるように思います。減損損失も含めて実現損益はPLに戻されるべきでしょう。

「それがOCIに行ったまま純利益に戻らないということは、コストの一部がどこかに消えたまま成果だけが出ている状態です。どの期のコストかは決められませんが、清算時にまとめて調整されるべきものです。」(斉藤静樹 経営財務NO,2929)

「我々としては、この案を通されると当期純利益の性格が変質してしまって、当期純利益のボトムラインとしての意味がなくなってしまう、クリーンサープラス関係が崩れてしまうと考えることから、反対してきています」(西川郁生 ASBJ委員長)

クリーンサープラス関係とは、簡単に言うと、

期首純資産+当期純利益=期末純資産

のことです。

クリーンサープラス関係が崩れたときに、この恒等式は成立しませんから、当期純利益のボトムラインとしての意味は変質してしまう、と西川氏は言っているのです。株主価値を評価する上で、当期純利益は決定的に重要ですが、そこからコストの一部が抜け落ちることで評価にバイアスが生じると考えられます。

クリーンサープラス関係が崩れることの最大の問題はここにあると私は思っています。日本はこんなものを本当にアドプションして良いのでしょうか?

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