終身雇用制度瓦解

「年金制度改定が実現しなければ、公的資金の融資が受けられず、会社が法的整理に至る可能性が高まります。その場合、基金の解散に至る可能性も高まります」11月末、日本航空の企業年金の受給者の手元に基金から文書が送られてきた。年金の減額に加え、受給者の権利として認められている一時金での受け取りを選択しないよう依頼する趣旨だ。」
(日本経済新聞2009年12月10日15面)

【CFOならこう読む】

終身雇用と年功序列賃金制度、そして確定給付型の企業年金、これらはすべて高度経済成長下においてのみ成立するものです。

そして賃金の後払いである年金制度は、給与の支払を先送りするものですから、その制度は会社の成長が止まったところで破綻するに決まっているのです。

終身雇用制度と年功序列賃金制度を維持するために、多くの企業は子会社で定年まで働けるような仕組みを作っているのです。公務員の場合はこの部分を天下りで賄っているわけです。

この点、浅田次郎氏の新著「ハッピー・リタイアメント」は明快に語ってくれています。

「バカだね、君は。何もわかっとらんじゃないか。では君のためにもう少し平たく言おう。日本の職場は終身雇用が原則だ。しかし一方では、年功序列による累進も一応の原則だ。前者は伝統、後者は近代軍制から発展した社会制度、どちらもおろそかにできないのだけれど、この二つの原則は論理的に矛盾する」

-ごもっともです。で?
「つまりこの二大原則をともに実行するためには、三角形と四角形が実は同じ形であるという、超幾何学が必要となる」

(中略)

-問題は終身雇用制ですね。年功序列の出世とこれは明らかに矛盾します。三角形と四角形が同一であるという、超幾何学です。
「三角形の組織論はナポレオン時代の軍制によって確立した。戦争という具体的な目標に向けて最も有効に機能する組織はこれしかない。産業革命以後の競争社会においては役所も会社も一種の先頭能力が必要だから、命令が伝達しやすく、かつ各セクションが当面の事案に対応しやすい三角形の組織に改変された。しかし、こと日本に限らず、もともと軍制であるこの三角形を非軍事面に採用するには矛盾があった。役人や会社員は死なないのだ」

(中略)

-そんな矛盾を承知で、どうして民間や会社や官庁が三角形を採用したのでしょう。
「そりゃ君、産業革命以降しばらくの間、少なくとも第二次大戦が終わるまで、資本主義社会は膨張し続けていたからな。資本主義とは企業そのものであり、ひいては国家そのものだ。国家が膨張し、企業がともに拡大の一途をたどっていれば、つまり三角形のサイズそのものが大きくなってゆくわけだから、あるいは三角形がたくさん派生してゆくわけだから、人的な問題は何も起きんだろう」

-何だかねずみ講を連想しますけど。

(中略)

-大企業ほど終身雇用率が高くなる。アレ? でも大きな三角形はその問題をどうやって解決するんでしょうか?
「最も有効な手段は、余剰人員を子会社に出向させることだな。年功序列で上が詰まれば、子会社に横滑りさせればいい。それで本社のピラミッドは維持される。人材が必要になれば呼び戻すこともできる」

(中略)

-わかりました。役所にはそれができないんだ。
「その通り。しかもどんな大企業にもまさる人的規模を持ち、安定度から言っても待遇面からしても、全員が終身雇用を希望する職場が役所なのだ。きれいな三角形を作りたくても、人間が減ってくれない。戦死もせず、中途退職者もなく、子会社に出すこともできぬとなれば、下界に天下ってもらうほかはなかろう」

浅田次郎著「ハッピー・リタイアメント」幻冬舎刊

多くのM&Aや法的処理は、この矛盾を解消できないままどうにもならなくなって行われるのです。この矛盾は公的資金や財政出動で解消されるものではありません。

重要なのは、ないものを創る力とそれを支えるインフラです。

ハッピー・リタイアメント
ハッピー・リタイアメント
幻冬舎 2009-11
売り上げランキング : 163おすすめ平均 star
starやっぱり面白い。
starお見事