ユニクロがデフレの元凶なのか?

列島が極度の消費不振に陥る中、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの健闘ぶりが目立つ。だが、目を凝らせばファーストリテイリングに続く潜在力を秘めた小売企業はあるはずだ。
(日経ヴェリタス2009年12月13日1面)

【CFOならこう読む】

「個人消費の変化を象徴する逆転劇が11月11日の東京株式市場で起きた。ファーストリテイリングの株式時価総額が1兆7947億円と、セブン&アイ・ホールディングスを300億円近く上回り、小売株のトップに浮上したのだ。
(中略)
ファーストリテイリングとそれ以外の企業には決定的な違いがある。ボストンコンサルティンググループの森健太郎パートナー&マネージング・ディレクターは「商品開発、店舗形態、組織、多角化など至る所で成長の種をまき続けてきたのがファーストリテイリング」と指摘する」(前掲紙)

文藝春秋の新年号で、「ユニクロ型デフレで日本は沈む」という対談が行われています。その中で次のような議論が行われています。

「小泉改革は規制緩和を進め、市場原理主義を進め、日本にグローバル・スタンダード主義を持ち込みました。その結果、日本はかつてなく競争の激しい社会になりました。
その過程で起こったことは、すべてデフレに直結しています。安い労働力を求めて海外に生産拠点を移せば、失業者が増えます。失業しないまでも、日本の労働者は外国の安い労働力と競合関係に入りますから、賃金は増えない。また、企業はコスト削減と柔軟な生産調整を実現すべく、正規雇用を非正規雇用に切り替えて行く。それが雇用の不安定化と低賃金化にますます拍車をかける。低賃金に甘んじざるを得ない労働者たちは、安物買いを強いられる。こうして低賃金と低価格の下方への循環が定着することになってしまった。
ユニクロもデザインと品質管理を日本で統括していますが、生産は中国などでしているので、あれだけ安くできる。だから、この10年のデフレは「ユニクロ型デフレ」とでも呼びたいですね」

このように語るのは、浜矩子氏です。氏は文藝春秋10月号で「ユニクロ栄えて国滅ぶ」を寄稿しています。柳井社長はこの論稿に対し、「反論にも値しないと思いますね。日本もグローバル化していて、その一員であるという視点が抜けている」とコメントしたそうですが、全く柳内社長の言う通りだと思います。

事象を一面からしか捉えられていないので、このような些末な議論になってしまうのでしょう。

この点、ザ・ワーク・オブ・ネーションズ」、「勝者の代償」の著者で、クリントン政権で労働長官も務め、また現在はオバマの政策アドバイザーを務めるロバート・B・ライシュの「暴走する資本主義」(Supercapitalism)は本質をついた議論をしています。

「1970年代以降、資本主義の暴走、つまり超資本主義と呼ばれる状況が生まれたが、この変革の過程で、消費者および投資家としての私たちの力は強くなった。消費者や投資家として、人々はますます多くの選択肢を持ち、ますます「お買い得な」商品や投資対象が得られるようになった。
しかしその一方で、公共の利益を追求するという市民としての私たちの力は格段に弱くなってしまった。労働組合も監督官庁の力も弱くなり、激しくなる一方の競走に明け暮れて企業ステーツマンはいなくなった。民主主義の実行に重要な役割を果たすはずの政治の世界にも、資本主義のルールが入り込んでしまい、政治はもはや人々のほうでなく、献金してくれる企業のほうを向くようになった。
私たちは「消費者」や「投資家」だけでいられるのではない。日々の生活の糧を得るために汗する「労働者」でもあり、そして、よりよき社会を作っていく責務を担う「市民」でもある。現在進行している超資本主義では、市民や労働者がないがしろにされ、民主主義が機能しなくなっていることが問題である。
私たちは、この超資本主義のもたらす社会的な負の面を克服し、民主主義より強いものにしていかなくてはならない。個別の企業をやり玉に上げるような運動で満足するのではなく、現在の資本主義のルールそのものを変えていく必要がある。そして「消費者としての私たち」、「投資家としての私たち」の利益が減ずることになろうとも、それを決断していかなければならない。その方法でしか、真の一歩を踏み出すことはできない。」

つまり特定の企業を悪者にすれば解決するような話では全くないのです。
「消費者」の立場から見るか、「市民」の立場から見るかによって結論は全く変わるのですから。
日経ヴェリタスの1面の見出しは「出でよ、次のユニクロ」です。
「投資家」の立場からは当然こうなります。

民主主義の復権と言っても、国にできることは限られています。
また、企業行動に多くの制約をつけられる国家からは有力な企業は逃げ出すに決まっています。

重要なのは雇用です、日本人が食っていくためには、グローバルな競争の中で日本人に優位性がなければなりません。企業は今後ますます無国籍化していきます。

われわれ日本人は日本人としての強みを磨き、世界中の企業に価値を認めてもらわなければなりません。
そのために国が、企業が、そして私たちひとりひとりが今何をすべきか考えなければいけません。

暴走する資本主義
暴走する資本主義 雨宮 寛

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