初夢 – 湘南を産業集積地(クラスター)に

・政府の成長戦略では「担い手」論が欠如
・ベンチャー軸に草の根イノベーションを
・独の政策参考に、クラスターの連携強化を

(日本経済新聞2010年1月13日25面)

【CFOならこう読む】

「クラスター内部で各企業はネットワークを形成している。その中には、大別して、ハブ企業、加工企業、企業支援サービス企業、さらには大学や研究機関などが存在する。組織を超えてそれらの異質な人材が交流し、互いが刺激されて知的な摩擦が生じ、新しい知識が創造される」(前掲紙)

このようなクラスターは例えば、

長野県「次世代産業の核となるスーパー・モジュール供給拠点」構想
浜松・東三河地域「光・電子技術イノベーション創出拠点」
岩手県「北上川流域を中心とするものづくり拠点」
沖縄県「健康・バイオ産業振興発展に向けた産学官連携拠点」

があるそうです。

私は新たな産業集積地として湘南に大きな可能性を感じています。クラスターがクラスターとなるためには、企業がそこに拠点を置きたいと思うだけの魅力がその地域になければいけません。

湘南の魅力はどこにあるのでしょう。

それは人が楽しく自由に仕事が出来る環境が、優秀な人材を惹き付ける、というところにあると私は思います。

パタゴニアでは、波が良いときには仕事を中断してサーフィンに行くことを奨励しています。

「私たちの会社で「社員をサーフィンに行かせよう」と言い出したのはずいぶん前からのことだ。私たちの会社では、本当に社員はいつでもサーフィンに行っていいのだ。もちろん、勤務時間中でもだ。平日の午前十一時だろうが、午後二時だろうがかまわない。いい波が来ているのに、サーフィンに出かけないほうがおかしい。
私は、数あるスポーツの中でもサーフィンが最も好きなので、この言葉を使ったが、登山、フィッシング、自転車、ランニングなど、ほかのどんなスポーツでもかまわない。
私が「社員をサーフィンに行かせよう」と言い出したのには、実はいくつか狙いがある。

第一は「責任感」だ。私は、社員一人一人が責任をもって仕事をしてほしいと思っている。いまからサーフィンに行ってもいいか、いつまでに仕事を終えなければならないかなどと、いちいち上司にお伺いを立てるようではいけない。もしサーフィンに行くことで仕事が遅れたら、夜や週末に仕事をして、遅れを取り戻せばいい。そんな判断を社員一人一人が自分でできるような組織を望んでいる。

第二は「効率性」だ。自分が好きなことを思いっきりやれば、仕事もはかどる。午後にいい波が来るとわかれば、サーフィンに出かけることを考える。すると、その前の数時間の仕事はとても効率的になる。机に座っていても、実は仕事をしていないビジネスマンは多い。彼らは、どこにも出かけない代わりに、仕事もあまりしない。仕事をしている振りをしているだけだ。そこに生産性はない。

第三は「融通をきかせること」だ。サーフィンでは「来週の土曜日の午後4時から」などと、前もって予定を組むことはできない。その時間にいい波がくるかどうかわからないからだ。もしあなたが真剣なサーファーやスキーヤーだったら、いい波が来たら、すぐに出かけられるように、常日頃から生活や仕事のスタイルをフレキシブルにしておかなければならない。

第四は「協調性」だ。パタゴニアには、「私がサーフィンに行っている間に取引先から電話があると思うので、受けておいてほしい」と誰かが頼むと、「ああ、いいよ。楽しんでおいで」と誰もが言う雰囲気がある。一人の社員が仕事を抱え込むのではなく、周囲がお互いの仕事を知っていれば、誰かが病気になったとしても、あるいは子どもが生まれて三カ月休んだとしても、お互いが助け合える。お互いが信頼し合ってこそ、機能する仕組みだ。

結局、「社員をサーフィンに行かせよう」という精神は、私たちの会社の「フレックスタイム」と「ジョブシェアリング」の考え方を具現化したものにほかならない。この精神は、会社が従業員を信頼していていないと成立しない。社員が会社の外にいる以上、どこかでサボっているかも知れないからだ。

しかし、経営者がいちいちそれを心配していては成り立たない。私たち経営陣は、仕事がいつも期日通りに終わり、きちんと成果をあげられることを信じているし、社員たちもその期待に応えてくれる。お互いに信頼関係があるからこそ、この言葉が機能するのだ。」

(「社員をサーフィンに行かせよう―パタゴニア創業者の経営論」東洋経済新報社より)

湘南はこのような環境で仕事をすることが可能な地域であると思います。奇しくもパタゴニアの日本支社は鎌倉の海の側にあります。

住環境を含めた生活環境も東京に比べると恵まれています。優秀な人材を多く集められる条件を整えることは十分に可能であると思うのです。また慶応SFCがあり、ここの出身者が湘南地区で起業するケースも出てきています。例えばiPhoneのゲームソフトで全米1位になったバンカクの本社は藤沢にあります(「米国1位のiPhoneアプリを作るには ― 日本のベンチャー・パンカクの挑戦」)。

この会社で働く江島さんという方が湘南で働くことについてこんな風に話しています。

「ベイエリアの田舎暮らしが長くなったこともあってか、ますます東京のノイジーでゴミゴミした環境が苦手になりつつあるのですが、パンカクのオフィスが慶応の湘南藤沢キャンパスの隣にあるということも、実は個人的に高ポイントでした。今回、新しい仕事の立ち上げで二週間ほど滞在してバス通いしたのですが、ああいうジモティー感はかなり好きです。」「株式会社パンカクにジョインしました」

「クラスターにおいては、ハブ企業や加工型企業を支援するサービス企業が一定の役割を果たす。創業支援、情報提供、コンサルティング、知財管理、人材の教育・訓練などを担当する」(前掲紙)

私も財務経理分野の専門家として、湘南地域のクラスターの発展に貢献したい、というのが今年の目標のひとつです。

【リンク】

社員をサーフィンに行かせよう―パタゴニア創業者の経営論
社員をサーフィンに行かせよう―パタゴニア創業者の経営論 Yvon Chouinard

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