ゲーリー・ベッカー氏インタビュー 「甘えるな、自立せよ」

大恐慌教訓に競争守れ 目立つ保護主義の動き

国発の金融危機を契機に、保護主義の動きが世界で目立ってきた。こうした近隣窮乏化策が不況を深刻化させた1930年代の教訓を世界は生かせるか。競争と自由主義の有効性を掲げるシカゴ学派の重鎮で、ノーベル経済学者の受賞者であるシカゴ大学のゲーリー・ベッカー教授に経済再生への道筋を聞いた。
(日本経済新聞2008年2月7日9面)

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シカゴ学派とは、

1920年代に米シカゴ大学経済学部から生まれた経済学派。政府の役割を極力小さくする一方で市場原理を活用し、民間の自発性を引き出す経済運営を唱える。1976年にノーベル経済学賞を受賞した故ミルトン・フリードマン氏らが代表とされる。
(前掲紙キーワード解説)

インタビューの中で、ベッカー氏は規制の必要性や政府の役割について言及しています。

−深く痛んだ金融機関はどう再生させればいいでしょうか。

必要な公的資金を迅速に投入すべきだ。額は莫大かもしれないが、そこでひるんではいけない。金融仲介機能の回復は急務だ。

−シカゴ学派は政府の介入を極力排除すべきだと主張してきましたが。

投資ファンドなどはバブル思考におぼれ、我々は経済の行方を楽観しすぎた。規律なき自由などあり得ない。米国は今後、民間の創意工夫や競争を後押ししながら、秩序維持にはどんな規制が必要か、新たなバランスを模索することになる。

日本においても中小企業に対する金融仲介機能が一部麻痺している現状において、公的資金を投入することは必要でしょう。場合によっては、資金を必要とする会社に対し直接公的資金を投入することもやむを得ないでしょう。シカゴ学派であっても政府の役割を全否定するわけではないのです。

しかしエルピーダメモリや日産に公的資金を使って資本注入することについては、ベッカー教授は賛成しないでしょう。一般事業会社について、資本注入すべき会社であるか否か政府が線引きをし、政府が資源配分を決定する社会はもはや資本主義社会とは言えないと私は思います。

もう一つベッカー氏の人的資本論は、

「投資によって生産能力を高めることができる資本」ととらえたベッカー教授の理論で、企業内教育などは生産能力向上のための投資で、訓練の成果は人的資本投資の収益である

というものです。

人的資本投資に失敗した会社の価値は上がらず、いつか市場から退出せざるを得ないでしょう。またそのような会社に終身雇用という名目のもと生涯縛りつけられる労働者も不幸です。

いま重要なのは、雇用を守れと企業を脅迫することではなく、労働市場を機能させられるよう皆で知恵を絞ることだと私は思います。

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