企業価値研究会の「買収防衛策のあり方」に関する報告書のポイント

買収防衛策、発動限定的に 経産省研究会

経済産業省の研究会がまとめる敵対的買収防衛策のあり方に関する報告書の全容が明らかになった。企業が実際に防衛策を発動する際の要件を具体的に明示。株主総会の議決に是非を委ねる方式での発動を経営者の「責任逃れ」とするなど、取締役会による的確な対応を求めたのが特徴だ。経営に規律をもたらすといった敵対的買収の効用にも言及し、経営者が自らの立場を守ろうとするような発動に強く警鐘を鳴らしている。
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20080611AT3S1001Y10062008.html

【CFOならこう読む】

報告書は本日(11日)公表されるようなので、一通り目を通してから、この場でまた取り上げることにしますが、新聞記事の箇条書きされたポイントを見て、一点非常に危惧されるところがあるので、今日はその点について書きます。

危惧されるのは、
「防衛策の発動に際し、買収者に対価として金銭を支払うべきでない」
というところです。

事前警告型ライツプラン(新株予約権を利用した買収防衛策)は、買収者だけ行使できない差別的条件を付した新株予約権を全株主に無償で割り当て、買収者以外の者に買収者登場前の時価よりも著しく低い価額で株式を取得させて買収者の持株割合を低下させる等の内容の防衛策を平時のうちに開示して事前警告を行うものです(「新株予約権の法務・会計・税務」税務研究会出版局)。

ところが国税庁が、「新株予約権を用いた敵対的買収防衛策に関する原則的な課税関係について(法人税・所得税関係)(平成17年4月28日)」の中で、「新株予約権が実際に交付された場合、法人株主は新株予約権付与時に新株予約権の時価相当額の受贈益が生じ、個人株主は行使時に株式の時価と権利行使価額との差額について課税が生じる」との見解を公表したため、経済産業省は平成17年4月28日に、有事において行使可能な第三者に譲渡可能な形で設計されたライツプランの新類型を発表し、同日国税庁は、「新株予約権を用いた敵対的買収防衛策の【新類型】に関する原則的な課税関係について(法人税・所得税関
係)」の中で、新類型の場合、課税関係は生じない旨明らかにしています。

現在の新株予約権を有償で買い取る実務は、この流れに沿ったものです。そして、この流れは経済産業省と国税庁が後押ししたものであったわけです。

今回の報告書が、この方向性を翻し、新類型のライツプランを否定するものであるなら、国税庁は平成17年4月28日の見解について見直しを行い、ライツプランを発動したとしても一定の要件を満たした場合、株主側では一切課税が生じない、ということにしないと実務は動かないと思います。

この辺りの調整が経済産業省と国税庁との間で出来ているのかどうかわかりませんが、国税庁としてもなかなか容認し難いところだろうと推察されます。

【リンク】

「1 事前警告型ライツプランに係る税務上の取扱い(第一類型)」
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hojin/050428/01.pdf
「新株予約権を用いた敵対的買収防衛策(ライツプラン)の【新類型】に係る税務上の取扱い(有事)」
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hojin/050707/01.pdf