賃貸不動産の時価開示

あの会社は不動産の含み損益がどれだけあるかー。2010年3月期末の決算からは、こんな投資家の疑問もなくなりそうだ。オフィスビルなど賃貸不動産の時価を開示する新しい会計ルールが導入されるからだ。あまり使われないビルを抱えていては含み損がかさむため、企業は不動産の有効活用を迫られる。
(日本経済新聞2009年4月14日 16面)

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日本の会計ルールを決める企業会計基準委員会は2010年3月期末の決算企業から、賃貸不動産などを対象に時価を注記で開示する会計ルールを導入した。時価開示が主流の国際会計基準との差を埋める「会計の共通化」の一環だ。賃貸ビルや有休不動産が対象となる。貸借対照表や損益計算書での計上額は従来通り原価ベースだが、注記で賃貸ビルの含み損益を投資家に周知させる狙いだ。
(前掲紙)

注記すべき内容は次の通りです。

賃貸等不動産を保有している場合は、次の事項を注記する。ただし、賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合は注記を省略することができる。また、管理状況等に応じて、注記事項を用途別、地域別等に区分して開示することができる。
(1) 賃貸等不動産の概要
(2) 賃貸等不動産の貸借対照表計上額及び期中における主な変動
(3) 賃貸等不動産の当期末における時価及びその算定方法
(4) 賃貸等不動産に関する損益」
(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準8項)

注記の対象となる賃貸等不動産は、次のものが含まれています。

(1) 貸借対照表において投資不動産として区分されている不動産
(2) 将来の使用が見込まれていない遊休不動産
(3) 上記以外で賃貸されている不動産」
(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準5項)

ここで時価の定義及びその算定方法が最も重要であると考えられますが、これは次の通り指針が示されています。

賃貸等不動産の当期末における時価とは、通常、観察可能な市場価格に基づく価額をいい、市場価格が観察できない場合には合理的に算定された価額をいう。賃貸等不動産に関する合理的に算定された価額は、「不動産鑑定評価基準」(国土交通省)による方法又は類似の方法に基づいて算定する。
なお、契約により取り決められた一定の売却予定価額がある場合は、合理的に算定された価額として当該売却予定価額を用いることとする。
(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針11項)

「第三者からの取得時(連結財務諸表上、連結子会社の保有する賃貸等不動産については当該連結子会社の保有する賃貸等不動産については当該連結子会社の支配獲得時を含む、以下同じ。)又は直近の原則的な時価算定(第11項参照)を行った時から、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に重要な変動が生じていない場合には、当該評価額や指標を用いて調整した金額をもって当期末における時価とみなすことができる。さらに、その変動が軽微であるときには、取得時の価額又は直近の原則的な時価算定による価額をもって当期末の時価とみなすことができる。」
(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針12項)

適用指針は第11項を原則的な時価、第12項をみなし規定としています。みなし規定は、第三者からの取得価額又は直近の原則的な時価算定による価額が適切に算定されていることを前提として、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に重要な変動が生じていない場合又はその変動が軽微である場合の取扱いです。

したがって、当該指標等に重要な変動が生じている場合や稀ではあるものの取得価額につき合理性が乏しいと考えれる場合は、原則的な時価算定を行わなければならないことに留意する必要があります。

【リンク】

平成20年11月28日「企業会計基準第20号 「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第23号「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針」の公表」企業会計基準委員会