TOBルールの特別関係者と5%ルールの共同保有者

不明確な記載規定 共同保有情報など混乱

「買収防衛策逃れではないか」。日本ハウズイング幹部は、同社にTOBを提案した原弘産に疑問を投げかける。
日本ハウズの防衛策の発動基準は20%以上の買い付け。このため日本ハウズ株を11.77%保有するランドマーク(広島市)と同16.16%保有する原弘産の関係が日本ハウズには大問題だ。合計すると発動基準に達するからだ。
ランドマークは昨年2月に原弘産の子会社から日本ハウズ株4.4%を譲り受けた。親会社の合人社計画研究所は原弘産の分譲マンションの管理を請け負っており、取引関係はあるが、大量保有報告書では「共同保有者」ではない。合人社は「原弘産とは無関係に投資しており、連絡は取り合っていない」とするが、日本ハウズは一日、改めて両社の関係を問う質問状を送付した。
同様の問題は、ダヴィンチ・アドバイザーズによるテーオーシーの敵対的TOBでも起きた。
TOBに対抗し、大谷卓男テーオーシー社長らが18.74%、ホテル運営のニューオータニ(東京・千代田)が最終的に15.53%までテーオーシー株を買い増した。ニューオータニの大谷和彦社長はテーオーシーの大谷卓男社長のいとこでテーオーシー会長も兼務する。関係は深そうだが共同保有者ではない。
発行株の三分の一超を取得するにはTOBが必要。テーオーシー側の保有株合計は三分の一を超えるとみたダヴィンチ側から「TOBルール違反では」との声も出た。
(2008年4月11日 日本経済新聞16面 大量保有報告書残された課題)

【CFOならこう読む】

TOBルールの三分の一の計算及び5%ルールの計算は本人だけでなく、本人と共同して株券等の取得を行うことを合意している者も含めて行われますが、その者をTOBルールでは「特別関係者」、5%ルールでは「共同保有者」といい、定義されている条文が異なります。上の記事では、この両者さらに自主ルールである買収防衛策の発動の要件を明確に区別せずに書かれているため、一般の読者には何が書いてあるのかよくわからないのではないかと思い、今日は「特別関係者」と「共同保有者」について書いてみることにしました。

「特別関係者」については、金商法27条の2第7項にいわゆる形式基準(同項第1号)と実質基準(同項第2号)の2つの基準が定められています。

買付者が法人の場合の形式基準の「特別関係者」は、簡単に言うと以下の3つが該当します。

①当該法人の役員(取締役、執行役、会計参与・監査役・理事・監事またはこれに殉ずる者)
②当該法人が特別資本関係(20%以上の株式等を自己又は他人の名義で所有する関係)を有する法人及びその役員
③当該法人に対して特別資本関係を有する個人ならびに法人およびその役員

また実質基準の「特別関係者」は簡単に言うと以下の4つが該当します。

①共同して株券等を取得することを合意している者
②共同して株券等を譲渡することを合意している者
③共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している者
④買い付け等の後に相互に株券等を譲渡し、もしくは譲り受けることを合意している者

一方5%ルールでは金商法27条の23第5項に共同保有者、金商法27条の23第6項にみなし共同保有者の基準が定められています。

「共同保有者」とは、株券等の保有者が、当該株券等の発行者が発行する株券等の他の保有者と共同して当該株券等を取得し、若しくは譲渡し、又は当該発行者の株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している場合における当該他の保有者をいいます。
したがってこの基準は、実質基準の「特別関係者」とほぼ同様のものです。

「みなし共同保有者」とは、一定の人的関係や資本関係(①夫婦②50%超の資本関係にある親子会社や兄弟会社)にある者をいいます。したがってこの基準は、形式基準の「特別関係者」の基準と異なっています。

実質基準の「特別関係者」(及び金商法27条の23第5項の共同保有者)の判定の上で、どのような場合に合意があったと見なされるのかが大きな問題となります。この点、「M&A法大全」(西村総合法律事務所編 商事法務)は次のように説明しています(67頁)。

「このような悩みは現実の取引の世界でしばしば発生する。仮に上記のような事案が裁判所に持ち込まれた場合には、当該取引に関するすべての事実・要素を総合的に勘案して判断されることになるであろう。取引の交渉から実行までの間にAとBの間で頻繁に話し合いが行われた場合、AとBに対して同一のアドバイザーがアドバイスを与えた場合、あるいは取引実行の直後にA、B間で株主間契約が結ばれた場合などには、これらの事実がAとBが特別関係者である(つまり、「共同して取得する合意」があった)と認定する際の根拠とされやすいであろう。もっとも、これらはあくまで認定の際の一つの判断要素にすぎず、たとえば、取引の実行前には、A,Bは互いの取引のことを知ってはいたがAB間での話合い等は一切なく、取引直後に始めて議決権行使の合意が行われた場合には、「共同して取得する合意」があったとはいえない
だろう。」

【リンク】

なし