本社設立のタックスプランニング—シンガポールの税制

NTTデータは2013年4月をメドに海外本社を新設する。米IT企業キーンなどを相次ぎ買収したことで海外のグループ会社は130社余りに増えており、これらの事業を効率よく束ねて経営スピードを高める狙いだ。さらに海外子会社を地域別の4拠点の集約するほか、IFRSをNTTグループでいち早く導入。新たなM&Aなど国際戦略を加速する。
(日本経済新聞2011年4月13日11面)

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「海外本社は開発、営業、財務など海外の事業全般を取り仕切る。NTTデータが全額出資して設立し、場所はシンガポールやニューヨークなど複数の候補地から選ぶ」(前掲紙)

海外本社又は地域統括会社の立地国を決定する際に、税制上の検討がとても重要となります。

例えば次のような点に留意する必要があります。

・法人税率及び優遇税率の有無
・受取配当金及び支店利益に対する課税
・キャピタルゲイン課税
・支払配当金に対する源泉税
・キャピタルロスの損金算入の可否
・資本登録税
・過少資本税制
・タックスヘイブン税制

(Raffaele Rosso, “Fundamentals of International Tax Plannning” IBFD P102)

ホールディングカンパニーの設立国としてのシンガポールの優位性が話題に上ることがありますが、簡単にシンガポールの法人税等の概要を以下にまとめます。

「課税標準(法人税)
法人所得税17%*1
キャピタルゲイン税 非課税
源泉税*2 – 配当非課税*3
源泉税*2 – 利子15%
源泉税*2 – ロイヤルティ10%
純営業損失 – 繰越可能年数 無期限

*1 17%の税率は、2008年課税年度から適用。シンガポール設立子会社と外国法人の支店の両方に適用される。居住者、外国法人に平等に適用される。2010年課税年度からさらに17%に引き下げられます。
*2 法人税率による源泉税は、テクニカルアシスタントフィーやマネージメントフィーなど、非居住者に対するその他の支払にも適用される。
*3 一段階配当課税制度は2003年1月1日に施行された。これは、インピュテーションシステムに代わるものである。

シンガポールの課税は、属地主義です。シンガポール国内所得、または海外所得のうちシンガポール国内受取所得は、課税対象です。グループ控除および関係会社間取引は、独立当事者間基準でなければなりません。

2003年6月1日より、シンガポール国内で受領した海外からの配当金、支店の利益およびサービス収入は、次に該当する場合、免税となっています。
• 税率が15%以上の国から送金された利益。
• 国外課税所得(外国において実質的な事業活動を行うことにより、税制上の優遇措置を受けた結果、非課税になった場合、本要件は満たされたものとされます)。
課税年度は、暦年1月1日から12月31日までです。課税は前年度ベースで行われます。例えば、2002年会年度の利益は、2003年申告年度に課税されます。」

(「税制」シンガポール経済開発庁(EDB))


(a) 居住企業の定義

所得税法(Income Tax Act)第2条で規定されるとおり、シンガポール国内で事業の経営および管理が行われている場合、その企業はシンガポールの居住法人となる。内国歳入庁(IRAS)は、登記場所や法人の居住地が定款に記載されているか否かなども考慮した上で法人が居住者/非居住者であるかを判断する。通常、外国企業のシンガポール支店は海外本店により経営と管理が掌握されているため、居住法人とはみなされない。居住法人・非居住法人とも法人税率をはじめとして適用される税制は同じであるが、居住法人のみが享受できる新会社に対する免税措置、国外源泉所得に対する免税措置、二重課税回避条約に基づく源泉税の減免など税制優遇を非居住法人は享受できない。

(b) 所得税

シンガポールは属地主義(territorial system)を採用しており、シンガポールに源泉がある所得、ならびにシンガポール国外源泉所得のうちシンガポールで受取られる所得が課税対象となる。シンガポールで受取られる国外源泉所得については一定の免税範囲があり、国外源泉所得が国外で課税の対象となり、かつ国外の最高法人税率が15%以上である場合は、シンガポールに送金される配当金、国外支店の所得、非個人のサービス収入は免税の適用対象となる。

非居住者がシンガポール国内外にまたがって取引や事業を実施する場合、その取引や事業の利得および利益は、シンガポール国外で実施された業務に直接帰属しないとされる範囲においてシンガポールに源泉があるとみなされる。シンガポール源泉所得総額を明確に算出する責任は納税者にある。

所得内容
課税対象となる所得内容は次のとおりである。

(i) 通商、事業から稼得された利得および利益
(ii) 配当金、利息および賃貸料など投資業務からの収益
(iii) ロイヤルティ、プレミアムおよびその他の資産から稼得された利益、ならびに
(iv) 収入の性質を有する上記以外の利得および利益

費用
課税所得の稼得のために専ら発生した費用は原則として損金算入できる。資本控除は工業用の建物および構造物、設備、機械ならびに特定の知的財産について適用可能である。

キャピタルゲイン
シンガポールにはキャピタルゲイン税はないが、繰り返し発生する性質のもので所得とみなすことのできるものは所得税の課税対象となる。売却益が資産の減価償却後価値を超える場合は、過去における減価償却の範囲で所得税の課税対象となる。

(c) 法人税率

2008賦課年度及び2009賦課年度の法人税率は居住法人・非居住法人ともに18%である。2010賦課年度より、法人税率は居住法人・非居住法人ともに17%に引き下げられた。

2008賦課年度に部分税額免除制度が導入され、通常の法人課税所得のうち最初のS$10,000の75%および次のS$290,000の50%が免税となる。2005賦課年度に税額免除(新スタートアップ会社)制度が導入され、新たに設立された法人で適格とされるものについては、設立から3年間、通常の課税所得のうち最初のS$100,000の100%および次のS$200,000の50%が免税となる。2010賦課年度からは、新会社に適用される免税措置に有限責任保証会社(company limited by guarantee)も含まれることとなった。

2010 年 2 月に発表された 2010 年度予算では、法人税率の改正はなく現行税率が維持されることとなったが、企業の競争力強化を図るため、生産性向上、技術革新を推進する企業に対して、 2011 賦課年度から2015 賦課年度まで、研究開発、知的財産権登録、知財権の取得、設計、自動化装置・ソフトウエア、社員の能力向上研修費など認定された 6 分野に投資すると、企業は税額控除または引当金と同等額を生産性・革新クレジットとして非課税助成金に変換することができることとなった。また、構造改革に向けた合併・買収( M&A )を推進する企業や不動産投資信託( REIT )を上場する企業に対しても税制優遇が適用される。

(d) 源泉税率

利息、ロイヤルティ、取締役報酬、技術支援料、マネジメントフィーなどシンガポールに源泉のある所得が非居住者に支払われる場合は10%、15%、もしくは法人税と同率(2010年より17%)の源泉税の課税対象となる。原則としてロイヤルティの源泉税率は10%に抑えられており、借入や債務に関して支払われる利息、手数料などには15%の軽減税率が適用される。技術支援料およびマネジメントフィーの源泉税率は、その時点の法人税率が適用される。

シンガポールは2003年1月より従来のimputation方式を改め、one-tier制の法人税制を採っている。この制度では、法人が課税所得に関して納めた税金が最終課税となり、法人が株主に支払った配当金は全て非課税扱いとなる。このため、5年間の移行期間を経た2008年1月より、シンガポール企業が非居住者に対して支払う配当金はシンガポールにおける源泉税の課税対象とはならない。

特定の支払いについては、二重課税回避条約、シンガポール所得税法の規定または政策に従って源泉税の免除または引き下げが適用される場合がある。特に日本−シンガポール租税条約に基づき利息の支払には10%の軽減税率で源泉税が適用されることになっている。

(e) 欠損金の繰り戻しおよびグループ合算

一定の条件の下、企業は未利用の減価償却額および事業上の損失額について、将来の所得と相殺するための繰越(欠損金の繰り戻し)または関連会社への引継ぎ(グループ合算)を行うことが認められている。また中小企業は、現行年度における未利用の減価償却額および事業上の損失額を1年間繰り戻すこともできる。

関連会社とは、シンガポールで設立された法人で、75%以上を直接または間接的に保有している会社を指す。

2009年1月に発表された2009年度政府予算において、景気対策「回復パッケージ」の一貫として、2009賦課年度および2010賦課年度に未利用の減価償却額および事業上の損失額が発生した場合、3年間に渡って繰り戻しすることができるようになり、また繰り戻しできる欠損金額上限もS$100,000からS$200,000に引き上げられた。

(f) 企業間取引

シンガポールには正式な移転価格税制は存在しないものの、企業間取引に独立企業間価格の原則を適用する例は所得税法の多くの規定や二重課税回避条約全般において見られる。

所得税法には租税回避防止規定があり、これによって非居住者−居住者間における取引が独立企業間価格に基づいていない場合、内国歳入庁は非居住者への課税を居住者名義で行うことができる。所得税法により内国歳入庁には特定の移転価格の取り決めを調整する権限が与えられており、この調整は当該の移転価格の取り決めが節税目的であることを内国歳入庁が確認した場合に実施される。

納税者による「事前確認制度」の適用については正式な手続きが定められており、企業間取引に対する課税の取り扱いを明確に把握するための機会が提供されている。

(g) 企業が提出すべき申告書

法人税の納付企業は、各年度の11月30日までを期限として内国歳入庁に所得税申告書(フォームC)を提出することが求められる。申告書には監査済財務諸表、税額計算書、裏付資料を添付しなければならない。

申告書を期限までに作成できない企業は、当該賦課年度の会計期間末から3ヶ月以内に課税所得の推定額を内国歳入庁に提出しなければならない。

(h) 税制上の優遇措置

シンガポールでは外国企業の誘致や産業振興を図る目的で様々な優遇措置が設けられている。これらの優遇措置は所得税法( Income Tax Act )および経済拡大奨励法( Economic Expansion Incentives Act )に規定されており、そのうち製造・サービス業を対象とした優遇措置の主な管轄当局は経済開発庁( EDB )である。経済開発庁の連絡先については下記を参照のこと。

<地域統括企業向け優遇措置>

地域統括本部 (RHQ: Regional Headquarters Award)
アジア太平洋地域の統括拠点をシンガポールに置く企業で政府の認定を受けた企業は、増分適格所得について 3 年間にわたり 15% の軽減税率が適用される。適格所得とは海外のマネジメントフィー、サービス料、売上、貿易所得、ロイヤルティを指す。地域統括本部の認定を受けるには、投資額、シンガポールでの事業規模など公表されている規定の基準を全て満たさなければならない。最初の 3 年目以降は、企業が要件を全て満たす場合にかぎり更に 2 年間にわたって 15% の軽減税率が適用される。適格要件には次の4項目が含まれる。

・資本金:払込済資本金が適用開始から1年以内に20万Sドル以上、同3年以内に50万Sドル以上になること
・サービス:3つ以上の本部サービス(事業企画の策定、経営管理、営業企画及びブランド管理、知的財産権管理、教育訓練及び人事管理、研究開発及び試験生産・販売、共有サービス、経済や投資に関する調査・分析、技術支援、資材調達・流通、財務顧問など)を3カ国以上の国外ネットワーク会社(子会社、関連会社、支店、合弁会社、駐在員事務所、フランチャイズ先を含む)に提供すること
・人事:(a) 適用期間中、常時、従業員の75%以上が国家技術資格2級( NTC2 )以上の資格を有すること、 (b) 適用開始から3年以内に10名以上の専門職者(ディプロマ以上の資格)を追加雇用すること、(c) 適用開始から3年以内に上位5位の管理職者の平均年収が10万Sドル以上になること
・事業支出:(a) 適用開始から3年以内に、年間事業支出(国外外注費、原材料・部品・梱包材料、国外に支払われるロイヤルティ・ノウハウ料を除く)が200万Sドル以上増加すること、(b) 適用開始から3年間の事業支出の累計金額が3百万Sドル以上増加すること

(申請窓口) EDB
(関連法)所得税法 43E 項

国際統括本部 (IHQ: International Headquarters Award)
国際統括本部は、地域統括本部( RHQ )としての適格要件を大幅に超える事業計画を約束する企業を対象とするものである。国際統括本部としての認定を希望する企業は、適格所得に対する 5 %または 10% の低率な軽減税率をはじめとする個別のインセンティブパッケージについて EDB と協議を行う。軽減税率やその適用期間は、個々の統括会社の規模やシンガポール経済への貢献度により決定される。

(申請窓口) EDB
(関連法)所得税法 43E 項


(「シンガポール-投資制度-税制」日本貿易振興機構(ジェトロ))

【リンク】

「税制」シンガポール経済開発庁(EDB)