繰延税金資産の取り崩し-日立のケース

日立、最終赤字拡大 09年3月期7880億円、製造業で過去最大

日立製作所は7日、2009年3月期の連結最終損益が7880億円の赤字(前の期は581億円の赤字)になったもようだと発表した。従来予想は7000 億円の赤字。グループ全体の黒字化に時間がかかると判断、繰り延べ税金資産の取り崩し額を増やした。製造業の赤字額としては過去最大になる。
NIKKEI NET2009年5月8日

日立<6501.T>の09年3月期当期赤字が7880億円に拡大、繰り延べ税金資産取り崩し追加で

[東京 7日 ロイター] 日立製作所(6501.T: 株価, ニュース, レポート) は7日、2009年3月期の当期赤字(米国会計基準)が2月3日時点予想の7000億円から7880億円に拡大すると発表した。2010年3月も厳しい経営環境が続く見込みのため、将来の税金還付を見込んで計上していた繰り延べ税金資産の取り崩しが増えることが赤字拡大の理由。
ロイター2009年05月7日

【CFOならこう読む】

新聞にこんなことが書かれています。

「同日会見した三好崇司副社長は「2010年3月期も厳しく見ざるを得ない」と述べ、繰延税金資産の取り崩し額を増やして今期以降の「税金リスク」を軽減する考えを示した。
さらに繰延税金資産の取り崩しなど税金費用として5050億円を計上する。従来は2500億円の取り崩しを計画していたが、これを3900億円に増やす。今期も収益環境の好転が見込みにくいうえ「結構な額のリストラ費用が出る」(三好副社長)という。最終黒字の確保は厳しいこともあり、前倒しで税金資産を取り崩す」

本来2009年3月期に計上すべき費用でないものを計上するという風に読めます。それって逆粉飾じゃないですか?

プレスリリースでは次のように説明されています。

「修正の理由2009年3月期の営業利益は、2009年2月3日に公表した業績予想(以下、前回予想)に対し、高機能材料部門や電力・産業システム部門を中心に各部門で改善したことから、前回予想を870億円上回る見込みです。この結果、税引前当期純利益も、前回予想から900億円改善する見通しです。
しかしながら、当社は、世界的な経済の悪化は2009年も続き、本格的な回復は2010年以降になると考えています。そのため、2009年度以降の税金費用増加リスクに対応すべく、当社を含む連結納税グループに係る繰延税金資産全額を一括評価減することとしたため、法人税等は前回予想から1,750億円増加する見込みです。この結果、当期純利益は、前回予想から880億円悪化する見通しです。 」

”税金費用増加リスクに対応すべく”って将来の費用の発生を前倒しで今期計上しとこうということ??

いやいやそうじゃないでしょう。現時点で来期以降課税所得が発生する蓋然性 が低いから、繰延税金資産を一括評価減することにしたのでしょう。監査法人からもその旨の指摘があったか、そうでなくともそれが妥当であるとの判断があったはずです。

つまり、前倒しで税金資産を取り崩したのではなく、2009年3月期に取り崩す必要があったから取り崩したのです。

”税金費用増加リスクに対応すべく”なんていうのは誤摩化しです。天下の日立が言うべきことではありません。

【リンク】

2009年5月7日「2009年3月期連結業績予想の修正および 個別決算における特別損失の計上に関するお知らせ 」株式会社日立製作所[PDF]