資本剰余金を原資とした配当 広がる

上場企業の間で、株主が払い込んだ「資本剰余金」を配当原資として活用する動きが広がっている。2009年3月期決算が最終赤字になり、利益の蓄積である「利益剰余金」がなくなった企業が多いからだ。赤字会社が資本剰余金で配当することには、投資家から疑問の声が出ている。
(日本経済新聞2009年6月4日12面)

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これは何とも的外れな記事ですね。配当とは株主にとってみればキャピタルゲインの前渡金のようなものです。

キャピタルゲインの源泉が株主価値であり、原資が利益か元手かなんて誰も気にしないのと同様、配当の原資も株主にとってはどうでも良い話です。

会社法もこのような前提に立って規定されています。

問題なのは債権者の利益が害されないか、という点ですが、これを問題にするなら、会社法上の分配可能額の規定の良否について議論すべきで、原資が利益剰余金か資本剰余金かは本質的な問題ではありません。

「2001年の商法改正で、資本準備金と利益準備金は株主総会の決議で取り消せば、配当原資にすることが可能になった。資本準備金は取り崩すと貸借対照表では「その他資本剰余金」になる。この改正は配当に対する考え方を抜本的に変えた。
従来は、配当を利益で行うものだったが、株主が払い込んだ資本剰余金も配当原資にできることになった。バブル期にエクイティファイナンスで膨らんだ資本剰余金を株主へ返すことで、資本効率を向上させる狙いがあった。」(前掲紙)

日本経済新聞 2009年6月4日

日本経済新聞 2009年6月4日

剰余金の配当により減額すべき剰余金の種類について会社法上の定めはありません。さきほどお話しした通り、会社法はそこには関知しないのです。

ところで配当の結果、原資とした剰余金(その他利益剰余金またはその他資本剰余金)がマイナスとなることが許されるかという論点があります。

この点について、郡谷大輔・和久友子編著「会社法の計算詳解[第二版](中央経済社)277ページに次の記載があります。

「ここで、剰余金の配当により、その他利益剰余金またはその他資本剰余金のいずれかがマイナスになるような会計処理を行ってよいかが問題となる。会社法上の財源規制の観点からは、当該配当が分配可能額の範囲内で行われるのであれば特にその¥財源が何であるかは問題とならないため、もっぱら表示の観点から検討すべき問題ということになる。
この点、公正なる会計慣行においては、少なくとも事業年度の末日において、剰余金の配当によっていずれかの剰余金がマイナスになることは想定されていないと考えられるため、そうならないような会計処理を行うべきと解される」

この点、さらに和久氏は、商事法務No.1845「会社法下における剰余金の配当に関する会計処理」の中で、配当時点(期末時点)においていずれかの剰余金がマイナスになることは認められないという見解を示しているので留意が必要です。

その他資本剰余金を原資とする場合の株主の会計処理ですが、これを投資の払い戻しとしてとらえて、原則として有価証券の帳簿価額の減額処理が行われます(企業会計基準適用指針第3号「その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の会計処理」)。

税務処理は次のようになります。

「平成18年度税制改正では、法人税法24条1項の規定のなかに、「資本の払戻しまたは解散による残余財産の分配」が設けられ、払戻額のうち資本金等の額に対応する部分については資本金等の額を減少し、払戻額がそれを超えるときは利益積立金額からの払戻しとしてみなし配当課税を適用するものとして整理されている。

減少する資本金等の額は、株主側では株式の譲渡対価となるため、譲渡原価との差額が譲渡損益として認識される。譲渡原価は、当該株式の払戻しの直前における帳簿価額に対して払戻割合を乗じて算定される(法人税法61条の2第12項、法人税法施令119条の9第1項。払戻し割合は、配当した会社から株主に対する通知事項とされているため、株主は通知を受けた払戻割合に基づいて株式の譲渡原価を計算することができる。」(太田達也「純資産の部」完全解説」(税務研究会出版局))

要するに有償原資と同様のプロラタ処理ということです。
なお、配当原資は株主資本等変動計算書の注記事項とされていることにご留意下さい。

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