最高裁、虚偽記載賠償額算定基準示す

西武鉄道による有価証券報告書の虚偽記載で株価が下落し損失を被ったとして、機関投資家や個人株主が同社などに損害賠償を求めた4件の訴訟の上告審判決が13日、最高裁であった。第3小法廷は「虚偽記載がなければ株を取得していなかった」として、投資家にとって取得自体が損害に当たると認定。取得価格から売却価格と、虚偽記載とは無関係な経済情勢などによる下落分を差し引いた金額を損害額とする初判断を示した。
(日本経済新聞2011年9月13日3面)

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「同小法廷は判決理由で「虚偽記載がなければ投資家が西武鉄道株を取得しなかったのは確実」と指摘。取得自体が損害に当たり、売却による埋め合わせ分を差し引いた「取得価格-売却価格」を損害算定の起点とすべきだとした。
一方で、経済情勢や市場動向、会社業績など虚偽記載と無関係の要因による下落分は投資家が負担すべきだと指摘。こうした下落分をさらに差し引いた金額が、投資家の損害額になると結論付けた。5人の裁判官を全員一致の判断」(前掲紙)

西武鉄道株に係る損害賠償訴訟で下級審が示した損害算定方法は次の4通りでした。

1.2008年4月東京地裁
公表日終値-売却価格

2.2009年1月東京地裁
取得価格-売却価格

3.2009年3月東京高裁
公表日終値の約15%

4.2010年3月東京高裁
平均取得価格×57.7%

今回の最高裁が示した算定基準を算式で示すと、

取得価格-売却価格-虚偽記載と無関係の下落分

となります。

しかし、虚偽記載と無関係の下落分をどう算定するかを具体的に示しておらず、仮にこれを取得価格と公表当日終値の差額とすれば、

取得価格-売却価格-(取得価格-公表日終値)=公表日終値-売却価格

となり、2008年4月東京地裁と同じものになります。

結局、虚偽記載と無関係の下落分をどう算定するか次第で算定結果は全く異なる訳で、今回の最高裁の判断は実は何も示していないと評価することもできます。

ただし、「取得自体、株主に損害」との認定は、今後他の虚偽記載の損害訴訟に波及していくかも知れません。

例えばIPO時点での粉飾が発覚した場合には、その粉飾がなければ上場出来なかったことになり、上場時の非常に高い価格で株式を取得している株主の損害賠償の算定の起点はその取得価格ということになる、と判断されるという具合に。

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