アステラス・CV Therapeutics

アステラス「人材より製品」 TOB米社の役員解任を提案

アステラス製薬は買収を目指す米バイオベンチャーに対し、取締役の解任を含む株主提案をする方針を決めた。2月下旬から敵対的TOB(株式公開買い付け)に踏み切った後、矢継ぎ早に異例の強行突破策を打ち出した背景には、有望な製品さえ手に入れば人材が流出しても構わないとの考えがある。
NIKKEI NET2009年3月10日

【CFOならこう読む】

アステラスは2月27日に以下の内容で、米バイオベンチャーCV Therapeuticsに対しTOBを開始しました。以下アステラスのプレスリリースからの抜粋です。

(1)買付け期間(予定)
米国東部時間2009年2月27日から20営業日

(2)買付けを行う株券等の種類
普通株式

(3)買付け価格
1株あたり16米ドル
注)当社は、買付け価格を決定するにあたり、第三者の専門家からの助言などを参考としています。

(4)買付けに要する資金
約11億米ドル(予定)
注)CV Therapeutics社発行済株式総数に上記(3)の1株あたり買付け価格を乗じた金額を記載しています。

(5)買付けの条件
本公開買付けは、①当社保有分(間接保有分含む。以下同じ)と併せてCV Therapeutics社発行済株式総数の50%超(完全希薄化後ベース)となる株式が応募されること、②CV Therapeutics社の取締役会がそのライツプランを消却する(あるいは、かかるライツプランが無効又は本公開買付け及びその後予定している公開買付者とCV Therapeutics社との合併若しくは類似する事業結合(以下「本件取引」と総称する)に適用がないと公開買付者がその合理的な裁量により判断する)こと、③当社子会社及びCV Therapeutics社の間で締結された2000年7月10日付Stock Purchase Agreementに基づくStandstill条項について、同条項が無効又は本件取引に適用がないものとなるよう、CV Therapeutics社の取締役会が、権利放棄、取消し又は修正を行う(あるいは、同条項が無効又は本件取引に適用がないと公開買付者がその合理的な裁量により判断する)こと、④デラウェア州一般会社法203条に規定される利害関係株主(interested stockholder)との事業結合に対する制約が本件取引に適用されないものとなるよう、CV Therapeutics社の取締役会が、本件取引を承認する(あるいは、かかる制約が本件取引に適用されないと公開買付者がその合理的な裁量により判断する)こと、⑤CV Therapeutics社がRanexa®に係る権利又は資産の譲渡、ライセンスその他一切の処分(直接・間接を問わない)又はその合意(本日までに米国証券取引委員会(SEC)に提出され本日現在有効な契約に基づき必要な限度で行われるものを除く)を行わないこと、⑥米国独占禁止法による待機期間の終了又は早期の解消、その他同種の取引に通常規定される各種条件を満たすことを前提に行われることになります。

3.下限応募株式数
公開買付者は、当社保有分と併せてCV Therapeutics社発行済株式総数の50%超(完全希薄化後ベース)となる株式の応募があった場合に本公開買付けを行います。

4.本公開買付けによる当社保有のCV Therapeutics社株式数の異動
本公開買付け前保有株式割合            0.1%以下
本公開買付け後保有株式割合            100%(*)
* 本公開買付けにより、CV Therapeutics社株式の100%を買付けることができた場合

16ドルというTOB価格は、2009年1月26日終値に対し41%、同日までの直近60日間の終値の平均値に対して69%のプレミアムを加えた価格です。

CV Therapeutics社の取締役会は、現在まで、アステラスとの協議に応じることなく、本提案を拒否しています。

さらにCV Therapeutics, Inc.及びその取締役に対して、デラウェア州衡平法裁判所(Delaware Chancery Court)に以下の内容の宣言的、差し止め救済を求める訴訟を提起しています。

1.2009年2月27日にアステラスが公表した公開買付けにCV Therapeutics社の株主が応じることを防ぐために、同社が最近変更した株主ライツプランを当該公開買付けに適用することを差し止めること

2.当該公開買付け提案が、2000年にアステラスUSホールディングとCV Therapeutics社の間で締結した契約の条項に違反するというCV Therapeutics社の主張を差し止めること

そして、今日のニュースは、アステラスが、CV Therapeutics, Inc.の2009年定時株主総会において、2名の取締役候補を推薦するとともに、残る4名の取締役の解任について株主提案を提出する意向を固めたことを報じています。

CV Therapeutics社の6名の取締役のうち2009年定時株主総会において2名の取締役が任期満了となりますが、それに代わるアステラスが推薦する 2名の取締役候補者の選任には、行使された議決権の過半数もしくは最多得票が必要です。また、CV Therapeutics社の定款にもとづき、他の4名の取締役は、同社の発行済み株式数の3分の2の賛成によって解任事由の有無を問わず解任することができます。

株主総会の開催日及び基準日は未だ公表されていませんが、アステラスは基準日前にTOBを終了し、2/3超の議決権を確保する意向です。

ところで、このTOBが日本企業に対し行われたなら、日本の司法はどのような判断を示すのでしょうか?

東京高裁決定平成17年3月23日(ニッポン放送事件)で 「会社を食い物にしようとしている場合」として指摘した買収類型は、 以下の4つでした。

1 真に企業経営に参加する意思がないにもかかわらず、ただ株価をつ り上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で株式の買収を 行っている場合(いわゆるグリーンメーラーである場合)

2 会社経営を一時的に支配して当該会社の事業経営上必要な知的財産 権・ノウハウ・企業秘密情報・主要取引先や顧客等を当該買収者やそ のグループ会社等に移譲させるなど、いわゆる焦土化経営を行う目的 で株式の買収を行っている場合

3 会社経営を支配した後に、当該会社の資産を当該買収者やそのグル ープ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で株式の買収 を行っている場合

4 会社経営を一時的に支配して当該会社の事業に当面関係していない 不動産、有価証券など高額資産等を売却等処分させ、その処分利益をもって一時的な高配当をさせるかあるいは一時的高配当による株価の 急上昇の機会を狙って株価の高価売り抜けをする目的で株式買収を行 っている場合

この判決以降、上の買収類型のいずれかに該当する場合、濫用的買収とみなせるという認識が実務上定着しつつあります。

アステラスがCV Therapeutics社 に対し行う敵対的買収は上記類型の2に該当すると司法が判断する可能性はないか、その判断は妥当か、そしてそもそも上の類型の買収を行う買収者を濫用的買収者とみなすことが妥当であるか否か、再考する必要があると、私は思います。

【リンク】

2009年1月27日「CV Therapeutics社に対する1株当たり16ドルの現金を対価とした買収提案に関するお知らせ」アステラス製薬株式会社

2009年2月23日「CV Therapeutics社の公表内容に対するアステラス製薬のコメント」アステラス製薬株式会社

2009年2月27日「米国医薬品会社CV Therapeutics社に対する株式公開買付けに関するお知らせ」アステラス製薬株式会社

2009年3月 2日「CV Therapeutics社に対する訴訟提起に関するお知らせ」アステラス製薬株式会社

2009年3月 9日「CV Therapeutics社に対する株主提案に関するお知らせ」アステラス製薬株式会社