ケンウッド、ビクター統合ーケンウッドが取得企業である理由は?

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昨日私はケンウッドが取得企業である理由を次のように説明しました。

「取得か持分の結合の識別について「企業結合に係る会計基準」は以下の要件の全てを満たしていない場合には、取得と判定する旨規定しています。

(1) 企業結合に際して支払われた対価のすべてが、原則として、議決権のある株式であること
(2) 結合後企業に対して各結合当事企業の株主が総体として有することになった議決権比率が等しいこと(議決権比率が45%から55%の範囲内)
(3) 議決権比率以外の支配関係を示す一定の事実が存在しないこと

本件の場合、(1)の要件は満足しています。(2)の要件については、ケンウッドがビクターの17%の持分を有していることを勘案すると、ケンウッド株主:ビクター株主=45:55となるので、これも満足していると思われます(もちろん1:2という統合比率はこれをクリアーするために恣意的に決められたという見方も出来なくはありませんが)。

ということは、(3)の要件を満足せず、つまりケンウッドがビクターを支配している一定の事実があるため取得と判定されたということです。これが具体的に何であるかはもう少し調べてみないとわかりません。後日またフォローしたいと思います。」

これについてM&A会計士様から次のコメントを頂戴しました。

「時価総額で考えるとビクター側が取得会社になりそうですが、やっぱりこれは、当初の第三者割当増資+株式移転という一連の流れから、ケンウッドによる取得とされたんでしょうかね?企業結合会計基準の注解2とか、適用指針の11、342あたりから、対価要件が満たせていないと判断されたのではないでしょうか?」

この点について今日は少しだけ掘り下げて考えてみたいと思います。

企業結合会計基準の注解2は対価が議決権のある株式であると認められるためには、同時に次の要件のすべてが充たされなければならないとしています。

1 企業結合は単一の取引で行われるか、又は、原則として、1事業年度内に取引が完了する
2 交付株式の議決権の行使が制限されない
3 企業結合日において対価が確定している
4 交付株式の償還又は再取得の取り決めがない
5 株式の交換を事実上無効にするような結合当時企業の株主の利益となる財務契約がない
6 企業結合の合意成立日前1年以内に当該結合目的で自己株式を取得していない

このうち本件で検討を要するのは1と6です。まず6ですが、適用指針第10号11項(6)が「一方の結合当事企業が他の結合当時企業の株式を取得する行為も同様に取り扱う」としていることから、昨年8月にビクターがケンウッドに対し行った第三者割当増資がこれに該当するか否かの検討が必要です。

6の趣旨は、「持分法の濫用という批判に耐えうる基準とするため」(Q&A M&A会計の実務ガイド あずさ監査法人編 中央経済社)というところにあるという見解もあります。つまり露骨に持分の結合の要件を満足することを目的として自己株取得は問題となることがある、という趣旨です。

しかしこれが本当なら対価要件ではなく、議決権要件の注釈でなければならないでしょう。そもそも本件の場合、議決権要件の潜脱であるということになれば取得企業はビクターということになってしまいます。

私は6の規定は、自己株の取得により一部の株主をスクィーズアウトする場合を想定したものと思っています。この場合実質的に対価の一部は現金であると見なすことができるからです。ただしそうであるとしても本件は第三者割当増資なので特に問題とならないように思います。

次に1です。1は、「企業結合取引を長期間にわたって複数回に分けて行うことにより、本来取得である企業結合を、持分の結合であるかのような状況を作り上げていくような潜脱行為を防ぐことが目的である」(同上)と一般に解されているようです。

しかしこの説明では、なぜ単一の取引でないといけないのか、そしてそれがどうして対価要件として規定されているのかよくわかりません。ここは複数回に分けて取引が行われ、かつその対価が現金であるような場合、取得と判定されることになると解するべきでしょう。そうであるなら、M&A会計士様の、「第三者割当増資+株式移転という一連の流れから、ケンウッドによる取得とされた」という指摘は当たっているように思えます。

もっとも、この規定を逆手に取ってプランニングに用いる余地もあるので、事前の第三者割当増資=取得(割当先が取得者)と考えるのは行きすぎのように思います。

本件の場合、ケンウッドが取得者であるという結論自体に問題はないと思いますが、その論理構成はどうもすっきりしませんね。

【リンク】

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