日本企業の実効税率

日本経済活性化のために法人税率の引き下げが必要と言われ、2011年度予算に減税が盛り込まれた。しかし、以下で述べるように、その必要性はもともとなかった。これを取りやめて、復興財源に充てるべきだ。
減税要求の論拠とされたのは、「日本の法人課税の実効税率が諸外国に比べて高い」ということだ。しかし、本当に日本の法人課税の負担は重いのだろうか? じつは、以下に述べるように、そうではないのである。

(『大震災後の日本経済』野口悠紀雄 ダイヤモンド社)

【CFOならこう読む】

「地方税も含めた法人課税の実効税率は、税引前当期純利益に対する率で見れば、28.4~33.5%程度だ。大ざっぱには「3割程度」と言ってよいだろう。これは、先進国の標準的な値とほぼ同じであり、格別高いわけではない」(前掲紙)

野口氏に限らず、日本企業の実効税率は3割程度であるということを言う人は他にもいるのですが、こういう大雑把な議論によって法人税率引き下げの必要性を否定するのは止めて頂きたいと思います。

法人実効税率と税引前当期純利益に対する法人税等の負担率との差の内容は、有価証券報告書の税効果会計関係に関する注記として記載されています。例えば、野口氏が引用している2008年3月期のトヨタ自動車の単体財務諸表では、次のような注記があります。

法定実効税率  39.9%
(調整)
試験研究費税額控除  △5.2%
外国税額控除  △4.8%
受取配当金等永久に益金に 算入されない項目  △2.0%
評価性引当額  0.4%
交際費等永久に損金に 算入されない項目 0.3%
その他  △0.6%

税効果会計適用後の法人税等 の負担率 28.0%

調整項目として、試験研究費の税額控除、外国税額控除、受取配当の益金不算入が大きいのは、トヨタに限らず一般的に見られるところです。

このうち、外国税額控除は外国で支払った税金を二重課税排除のため控除するもので、受取配当の益金不算入も税引後利益に対し二重課税を排除するために設けられている措置なので、この部分の影響は除外して実質的な法人税等の負担率を把握すべきです。

試験研究費の税額控除は、その費用対効果や公平性といった観点から見直しが必要であると思われますが、試験研究促進税制そのものは他国にも存在するわけで、比較対象とする諸外国の負担率についてもこれを勘案してみなければ、比較することはできません。

2011年4月11日号のビジネスウィークは米国の税金問題を特集していますが、その中で日本の実効税率は39.2%と世界最高であり、5%引き下げられることにより米国が世界最高となることを非常に問題視する論稿が寄せられています。

外国企業を日本に呼び込むことがこれからの日本にとって重要であるなら、日本の実効税率は高くはないとごたくを並べるのではなく、日本の税率は世界レベルで見て決して高くはないと、外国企業に思ってもらえることが重要なはずです。

その第1ステップとして、法人税率の引き下げは絶対に必要です。

【リンク】

大震災後の日本経済ーー100年に1度のターニングポイント
大震災後の日本経済ーー100年に1度のターニングポイント 野口 悠紀雄

ダイヤモンド社 2011-05-13
売り上げランキング : 761

Amazonで詳しく見る by G-Tools