日立、大型買収でも評価されず

「エネルギー政策について話すいい日だ。日立製作所が、200億ドル(約2兆6000億円)の投資を決めたんだから」。10月31日の英国議会。政府の不透明なエネルギー政策が、企業に投資の二の足を踏ませているとの野党の批判に、キャメロン首相はこう反論した。日立は10月30日、英原発事業会社「ホライズン・ニュークリア・パワー」を6億7000万ポンドで買収すると決めた。買い手候補が次々と撤退していただけに、日立の買収は英政府に大きな安心をもたらした。
(日経ヴェリタス2012年11月5日46面)

【CFOならこう読む】

「英シュローダーズで日本株の運用を担当するアンドリュー・ローズ氏は、「幅広い事業を抱える日立は、マネジメントが難しいとどうしても考えてします」と指摘する。だから原発という一つの事業で好材料があっても、日立株には投資しにくい。「通信という限られた分野で世界上位を狙うソフトバンクの米大手買収と比べて高揚感はない」(ローズ氏)という。」(前掲紙)

この買収に関する記事で、フィナンシャル・タイムズは、次のように、50年前に洗濯機と原発を作っていた会社が今も両方を作り続けていると、事業の取捨選択が進まない様子を揶揄しています。

“Who but a Japanese group – Hitachi, in this case – could claim as its two big achievements in 1961 a fully automatic washing machine and an experimental nuclear reactor? Half a century on, the company still makes both – witness its deal for the UK’s Horizon nuclear project on Monday. Yet it is has become no easier to justify one company making both.”
(FINANCIAL TIMES October 30, 2012)

揶揄されるべき会社は、日本には日立以外にもたくさんあります。売上至上主義のもと、全く無関係の多くの上場子会社を傘下に抱える会社。こういった会社は事業の取捨選択を進め、場合によってはスピンオフという形でグループから切放すべきです。

スピンオフは、典型的には子会社株式を親会社株式に分配するという形で実行されます。ところがこれが日本で行うと(100%子会社を除き)、法人レベルでは譲渡損益課税、株主レベルではみなし配当課税等が生じてしまうので、簡単には実行できないのです。

平成13年に企業組織再編税制が導入された当初から、この問題が指摘されていましたが、例えば経団連のお偉いさんは、実業界にニーズがない、と言い放って問題を先送りしました。

こういった先見性のない人達が日本の会計や税制といったインフラ整備に関わり続けていることが、今の日本経済の硬直性・閉塞性の一因になっていると、私は思います。

米国の連邦所得税のような、スピンオフ実行時の課税繰延規定を大至急整備する必要があります。

【リンク】

2012年10月30日「英国ホライズン・ニュークリア・パワー社の買収について」株式会社日立製作所