リチャード・ボールドウィン「スマイルカーブ」
・企業は国・地域の比較優位に応じ生産分散
・生産の特化は「仕事」の比較優位で決まる
・高度人材の養成・都市政策なども大きな課題
(日本経済新聞2013年8月16日24ページ 経済教室「広域FTAの時代」白石隆 政策研究大学院大学学長)
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「そこで重要なことは付加価値が国際価値連鎖の中でどう分配されるかである。ジュネーブ国際問題高等研究所教授のリチャード・ボールドウィン氏はこれを「スマイルカーブ」を使って明快に説明する。スマイルカーブとは、価値連鎖の上流・中流・下流がそれぞれどれくらいの付加価値を取れるかを示したもので、人間が笑ったときの口の形のように、両端が少し上がった形の曲線になる。
1970年代にはスマイルカーブはなだらかだった。しかし、生産システムの細分化、地理的分散、業務のオフショアリング(海外への委託)によって、その勾配は近年、きつくなっている。別の言い方をすれば、商品の企画、製品の設計、部品生産、製品の組み立て、マーケティング、アフターサービスなど、国際的な価値連鎖の中でどのような「仕事」に特化するかによって、どれほど付加価値を取れるか、国としても、企業としても、大きな違いが生まれることになった。」(前掲稿)
ジェトロとWTOが共催したシンポジウムでリチャード・ボールドウィン氏が講演した際のレジュメに「スマイルカーブ」についての説明があります。
「スマイルカーブの経済学的ロジックは単純である(Baldwin 2013)。加工・組 立工程はどの国でも容易に実現可能である。その結果、加工・組立工程が「商 品化」され、先進国の企業はこの工程をどこに移転するかについて無数の選択 肢を持つ。一方、製造をサポートするサービス業は「商品化」されていない。 こうしたサービス業では、専門的な技術を持った技能集団が複製しにくい価値 を生み出している。大量生産の技術は製造の段階には有効だが、その前後を取 り巻くサービス業においては機能しない。先進国では、製造の仕事は「悪い」 仕事になり、それをサポートする仕事が「良い」仕事となった。この考え方は 米国のアップル社やフィンランドのノキア社の経営戦略に如実に表れている。
政策的な視点から重要なのは、先進国においては、都市が 21 世紀型の工場に なったということである。賢明な政策立案者は、今後、都市政策をグローバル 化政策および産業政策に組み込んでいくべきである。非熟練労働者に用意され た製造の仕事は、先進国ではすでに過去のものである。それらは国内ではロボ ット、国外では中国の生産力に取って代わられている。良い仕事、すなわち、 突発的に海外移転されることのない仕事は、有能な人材を広範かつ厚く集積し た都市にこそ生まれるのだ。」
(http://www.ide.go.jp/Japanese/Event/Sympo/pdf/2013WTO_Keynote1_Baldwin_paper_jp.pdf)
白石氏は、付加価値の大きいところに日本として比較優位をもてるようにするために必要なことについて次のように論じています。
「高度人材・グローバル人材養成のための教育政策、そういう人たちを外国人もふくめ引きつける魅力的な都市作りなど、通商政策を大きく超える課題が、通関手続き、法人税制、雇用制度などの改革と並んで課題となる。」(前掲稿)
この課題に取り組むことこそが成長戦略なのだと私は思います。
【リンク】
http://www.ide.go.jp/Japanese/Event/Sympo/pdf/2013WTO_Keynote1_Baldwin_paper_jp.pdf