「床屋談義」って・・・

今や安倍晋三首相の筆頭経済ブレーンにして、次期日銀総裁のフィクサーになった感もある浜田宏一イェール大学名誉教授。内閣官房参与でもある、氏による「アメリカは日本経済の復活を知っている」が売れている。まさに旬の人。多くの人がそのタイムリーさで本書を手に取るはずだ。
(日経ヴェリタス2013年1月20日61ページ)

【CFOならこう読む】

この週末に、浜田宏一「アメリカは日本経済の復活を知っている」と大前研一「クオリティ国家という戦略」を読みました。

浜田氏は、「円高を招き、マネーの動きを阻害し、株安をつくり、失業や倒産を生みだし」日銀が金融緩和を十分に行わなかったことにその責任があり」、年間3万人を超える自殺者と無関係でないと述べています。

一方、大前氏は、「日本はかつて「加工貿易立国」という国家モデルで大成功した。そしていまだにその成功モデルから抜け出せておらず、長期の低迷に陥っても危機感が欠落している。その大きな理由は将来世代からの借金(国債)を乱発することが鎮痛剤となっていたからである。」と述べています。

要するに、浜田氏は紙幣の印刷機の回し方が足りないと批判しているのに対し、大前氏は印刷機を回し過ぎたことが「加工貿易立国」から次の国家モデルへ転換を阻害していると批判しており、全く正反対の指摘をしています。

大前氏は、「加工貿易立国」から「クオリティ国家」への転換を主張しています。クオリティ国家とは「世界市場での競争力」と「世界を呼び込む吸引力」を兼ね備えている国家です。

・世界市場での競争力
クオリティ国家は、グローバルに通用する企業・人材・ブランドを輩出している

・世界を呼び込む吸引力
クオリティ国家は、世界から、企業、カネ、人材、情報を呼び寄せて反映している

一方、浜田氏は日本の製造業は十分に力を持っており、特に次の国家モデルへの転換の必要性を感じておられないようです。むしろ国内産業の空洞化は、「整理され解雇される国内の労働者にとっては、あまりに過酷で」、金融政策により円高を是正することにより国内産業の空洞化は是正されなければならないと主張しています。

私は、浜田氏が次の日本の国家ビジョンを語っていない点が極めて不満です。

国家ビジョンは、ミクロをきちんと把握してこそ語れるもので、この視点を欠いたマクロの議論は全く意味がない、と思っています。

浜田氏の本は、結局のところ、自分が主張する経済学の理論は世界の常識であり、これ以外の理論は「床屋談義」であると切り捨てているだけの本です(一般の人にわかるように平易に説明することに力点をおいておらず、君らにはわからないだろうが、世界の一流の経済学者にとっては常識だということを延々と説いているだけの本です)。

しかし、そもそも「床屋談義」なんぞという言葉を今の時代平然と使う経済学者の言葉を私は信用出来ない。

床屋って、1000円カットの隆盛等の産業構造の変化により、客離れが進んでおり、ほとんどの床屋は昔の床屋のまま生き残ることが難しくなっているわけでしょ。そんな時代に「床屋談義」という言葉を平然と使うその神経が理解できないし、ミクロが見えていない証拠のように思えるのです。

ああそう言えば、大前氏は「床屋」というビジネスの変革の必要性を随分昔に主張していたな。

日経ヴェリスの書評も、「リフレ派の泰斗の「集大成」は肩すかし」と厳しい評価をしていますが、私も同感です。

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