日本の成長戦略

筆者は、安倍晋三政権が掲げる経済政策の「3本の矢」、すなわち大胆な金融緩和策の下でのインフレ率の押し上げ、機動的な財政政策による景気刺激、そしてさまざまな経済構造改革を通じた成長戦略を支持している。ただし3本目の矢を本気で実行しない限り、最初の2本の矢は長期的な効果をほとんど上げられまい。
(日本経済新聞2013年5月29日33ページ 経済教室 リチャード・クーパー ハーバード大学教授)

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需要サイドから見ると、若年層の需要(例えば住宅需要)が減る一方、高齢層からの需要は次のように増えると述べています。

「人口の高齢化とともに、医療や高齢者向けホスピスの需要が高まることはあらためて言うまでもない。
健康な人も、退職後には旅行、娯楽、教養、伝統工芸など余暇時間に新たな活動を始めるものだ。こうした新たな需要への適応は、個人にとって意味がある以上に、経済全体にとって価値がある。たとえ全体としての成長率は下がるとしても、3本目の矢はこうした新たな需要の創出をめざすべきである。」(前掲稿)

高齢者の需要がこれから増えていくことは誰の目にも明らかです。
しかし、この需要を掘り起こして行くには、高齢層を老人として扱わないことが肝心であると思います。

山口百恵さんの自伝「蒼い時」のプロデューサーとして有名な残間里江子さんが、今手掛けているのは50~60代向けの会員制ネットワーク「クラブ・ウィルビー」です。これを始めたきっかけを残間さんは次のように話しています。

「ウィルビーを始めたきっかけは、アドバイザーとして招かれた企画で、プロジェクトリーダーに投げかけられた言葉だった。
07年ごろ、定年を迎えようとしていた団塊の世代に商品やサービスを提供しようというビジネスが続々と登場しました。私もほぼ団塊の世代ですので、さまざまな会社に呼ばれたのです。でも私たちの世代に「買いたい」「行きたい」と思わせる企画はどこにもありませんでした。
まだオシャレを楽しみたいのに、服は「ウエストがゴムだから楽です」なんて機能を大々的に宣伝します。色も地味なものばかり。住宅のリフォームにしても、「バリアフリー」を強調していました。いずれ必要になるのはわかっているけれど、それは75歳くらいになってから考えればいい。子供が独立した今は、自分の部屋がほしいと思っている。そういうところが全然わかっていないんです。
企画のプロジェクトリーダーは多くが40代後半でした。彼らの目には私たちの世代が老人と思えたのでしょう。
その一人に「確かに鏡に映った顔は老けたかもしれないけれど、私たちはその向こうにある昔と同じ自分を見て、ものを買うのよ」と言いました。まだ自分の可能性を信じているし、夢も見ています。異性に心をときめかせたいとも思っています。
そう説明したら「そんな大人、いませんよ」と言うんです。「いるわよ」と私が答えたら「連れてきて、見せてくださいよ」。
じゃあ、見せてあげるわよ。ウィルビーを始めるきっかけは、まさに彼のその言葉だったのです。」(日本経済新聞夕刊2013年4月22日7ページ)

成長戦略というのは、役所が右へ倣えさせることで生まれるのではなく、常識にとらわれない、柔らかな発想から生まれるのです。

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